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もし、月の女神様に会えるなら、あなたはどういうことを話す?

女神様のことを知りたい?あるいは、自分のことを女神様にお話す?

「今日もお留守番よろしくね」

両親が不在がちだったり

 


「今日は16時からピアノのレッスン、その後はご主人様のお客様が参りますので……」

生活の決定権が自分にはなかったり

 


「美咲は短大までは清桜よ。卒業したら花嫁修行をして……」

決められたレールの上を歩かされたり

 


「良いお相手でしょ? お父様のお仕事には欠かせないお家の跡取り息子さんなのよ?」

将来を誓う相手が勝手に決まっていたり……

 


そりゃ、全然無かったら絶対困るんだけど


でもいっぱいお金があれば幸せってのは

 

やっぱり違う……
「えっ?」


「結婚、すんだ。大学から付き合ってた彼女と」


優しそうな茶色い瞳を、嬉しそうに細める目の前の人は、7つ離れた隣のお兄ちゃんで


「そっ……そっか、そうなんだ!? おめでとう!」


今もなお続く初恋の君。


「け、結婚て、京ちゃん早くない? 今年24歳じゃなかった?」


「早くないよ。俺の仕事もやっと軌道に乗ったし、これ以上俺が待てそうにないんだ」


そう言って笑う顔が幸せに満ちあふれているから、私はもう何も言うことは無くなった。

分かってたけどね?


ずっと付き合ってる彼女がいたのも


どうやったって京ちゃんの隣になんか立てないことも。


だって


私にだって……

 

将来を決められた相手がいるんだ。

 


「美咲? どうしたの?」


「ううん! 何でもないよ! それより幸せになってね」

 

私の失恋なんて今の彼女のずーっと前からだ。


それでも大好きだった京ちゃんは、今度こそ誰かのモノになってしまう……。


通い慣れた京ちゃんちからうちまでのほんの数メートルを歩きながら、ちょっとだけ込み上げた想いを呑み込んだ。京ちゃんちはお父様がとっても偉い学者さんだ。


親の会社とか付き合いな振り回されないけど、とても裕福な家庭。


京ちゃん本人はお父様の研究には見向きもせずに、財閥系大手商社に就職を決めた。

 

そして何度か会ったことのある京ちゃんの彼女は国立大学に奨学金で通うような、ごく普通の……それよりも少し貧しいくらいの家らしい。


羨ましい。


自分の好きなことをして

愛する人と添い遂げられるなんて……

 

無駄に大きいクイーンサイズのベッドに倒れ込んで


白木で作られたお気に入りのチェストの上に視線を向けた。


強制的にママに飾らされた婚約者の写真。


とは言っても写真は子供の頃のもの。


もう数年そこに鎮座しているその写真に写る男の子。


屈託なく笑う顔は天使みたいに可愛くはある。


同い年って聞いてるから今年高校二年生のはず。


……今はどうなってるかわかんないけど。

 

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    kino0520 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()