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コンプレックスは白い世界となる場合、どういう感じかな?

多彩な世界の方がよいかな?

二十分もすれば、大学の最寄り駅まで着く。駅からは徒歩八分くらいで、なかなか立地条件としてはよい。
 ちなみに、私は大学生ではない、私は、事務員として大学で働いているのだ。
 ただ残念なことに、私の働く大学に弟の宏と悠くんは在籍しており、時折彼らと遭遇する羽目になる。

 まあそうは言っても私は常に窓口に居るわけではなく、奥での書類作成など裏方の仕事が多いため、そうそう学生と接する機会はないのだが。

 入りたての頃は、学生と触れ合うことのできる花形の窓口がよかったのだけれど、弟たちが入学して以来、卒業するまでは今の立ち位置が安全だとも思っている。

 実を言えば、入社して二年目のペーペーは、来年どこの部署へ異動となるかわからないのだけれども。

 多分、それが目下の悩み。

「結城さん」

「はーい」

 室長に呼ばれ、私は席を立った。

午後六時半。
 今日は遅番ではないため、私は帰宅となる。適当に荷物をまとめて職場をあとにすれば、五限を終えたばかりであろう学生たちが、各々の目的地へと異動する様が目に映る。

 二年前は、私もあそこに居たのか。

 なんだか、感慨深いものがある。実際には、大学を卒業してもなお職場として大学を選んだため、この空気から一時も離れてなどいない。
 むしろ、延長線上に居る。

 もちろん、大学で過ごす時は彼らとは違う。けれど空気は同じであり、ずっとそこに浸っているとなんだか今自分がどこに立っているのかわからなくなるのだ。


――年、なんだろうか。


 そう年齢も変わらぬ彼らと、自分の違いとは一体何なのだろう。

 見た目だけで言えば、大人っぽい学生は多い。化粧だって、がっつり盛ってるし。

 なんだか、胸が苦しくなる。
蓋をした過去が、まざまざと思い起こされて。自分が成長していないと、叱られているような錯覚を起こす。


「七美さん?」


 急に名前を呼ばれ、ぎくりと背筋に緊張が走る。ぎこちなく振り返れば、そこに居たのは悠くんだった。

「驚かせました?」

「いや、別に…」

 驚いたのは事実だけれど、驚いた理由は別のところにある。
 彼には、言えない。

「嘘。めちゃくちゃ不自然な動きしていましたよ」

「それは気のせいだよ」

 適当に取り繕いながら、私は周囲に視線を泳がせた。

「そんなに気にしなくても、大丈夫ですよ」

「なにが?」

 一応、とぼけておくべきか。しかし、彼にはお見通しだろう。嗚呼、滑稽。

「周り。今時学生と職員が知り合いでも、なんの問題もないですって」

じっと見つめられて、私は仕方なく息を吐いた。
 彼の瞳は、何を映しているのか今も昔もわからない。ここは、話題を変えるのが無難か。

「そういえば宏は?」

 手近なところで、一番自然な話題を。

「宏?宏ならとっくに授業を終えてサークルに行ってると思いますけど」

「ああ、軽音サークルか…」

 宏は高校の時からバンドを組んで、時折ライブなども行っていた。今はサークルでギターボーカルをしているとか言っていたっけ。

 健全な学生生活だな。

「悠くんも、そうだっけ?」

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